午後11時40分、近鉄大久保駅前駐車場

 

 

 

 

 

 

「私やまべしのこと、めっちゃめちゃ好きやったよ」

 

声にならない声で口にした言葉は、赤信号の光しか届かない暗い車内に重く響いた。

 

 

 

 

 

 

少し間が空いて、赤信号が青に変わらないうちに、

 

「うん、俺もすごい好きやったよ」

 

と、はっきりした声で私の耳に届いた。

 

 

 

正直、

知ってるなあ、知ってたなあ、この人に愛されてたことって思った。

 

 

いらんこと聞いたなって、ちょっと思った。

 

 

 

柔らかい目も、サラサラの髪も、真っ直ぐな目も、優しい声も、少しざらついた肌も、骨張った手も、何にも変わらんかったけど、

 

 

 

ただこの人に触れないことだけが前と違ってた。

 

 

 

そういえば、

洋楽しか聴いてなかったのに、邦ロックのプレイリストを流してたのも変わったことの1つやった。

 

 

新しい彼女のTwitterプロフィールには、スラッシュに挟まれて、邦ロックの文字があった。

 

 

 

 

 

傷つきたくない、とは思いながらも

気になってしまうことを聞かずにはいられないのが人の性で、

 

 

 

 

 

あの時どう思ってた?

なんで別れた?

別れたあとどうしてた?

今の彼女はどんな人?

 

 

 

とかいっぱい聞いた。

 

 

 

周りには車が全然走ってなくて、

ただ夜の静けさの中に髭男だけが楽しそうに歌ってた。

 

 

 

赤信号はやけに長く感じられたし、

その赤信号に照らされてやっと見える君の顔は、直視するには眩しすぎた。

 

 

 

 

彼の今の彼女について私の印象だけ書くと、

 

純粋でまっすぐな子

 

という言葉に尽きる。

 

 

思ってはいたけど、

やっぱりいい子そうやから、

(とびっきりいい人のあなたには)

「お似合いやん」なんて偉そうに言葉を投げた。

 

 

 

君が幸せならそれでいいよ、

 

とか言っていた私はどこへ行ったのか、

 

 

 

「温奈のことを本気で幸せにしようと思ってたよ」

 

 

って言うから、

 

 

心の中で

「あなたと幸せになりたかったよ」っていいながら、

 

 

「うわ〜〜それ帰ったら泣くやつ」

 

 

とか言って、適当に流した。

 

 

あなたが幸せならそれでいいなんて、

今は大きな声で言えんけど、

 

 

あなたには幸せでいてほしい、って本気で思った。

 

 

 

 

 

頑なに触れてこないのも、

言葉をきちんと選んで話すところも、

彼女にも私にもマイナスな発言を一切しないところも、

 

 

 

 

なんだかとっても君らしくて、

君に愛されていたことを誇りに思いました。

 

 

 

 

もうこんなに話すことは2度とないのかもしれないし、あのオレンジ色の車に乗ることもきっとないし、偶然に再開するなんてこともないやろうな、

 

 

 

それでいいねんけどな。

 

 

 

 

 

どうか、どうか、

これからもあなただけは幸せでありますように

 

 

 

 

あなたの知らないところで幸せになろうとしてみます

 

 

 

 

 

拾ってくれて、ありがとう